ICUでの5日間

眠ってください 眠ってください
ICUでの五日間の生活が始まりました。
意識が戻ったのがいつごろか、正確にはわかりません。
はっきり覚えているのは、前に書いた「ありがとう、ありがとう・・・」のシーンですが、その後はまたボーっとしながら、命の管理が続きました。
 これから書くことは、今から移植を受けようという人には参考になるかもしれませんね。当然、個人差があるから、その人がどうかはもちろんわかりませんが。

 酸素マスクの内側につく水滴がいやで、それが気になり、いつもティッシュでぬぐっていました。口の中に溜まるつばを飲み込むのが自然にできず、いつもティッシュに吐き出していました。夜中にこんなことをしていると、すぐ看護士さんがやってきて、状況を説明して、ある程度は我慢して眠るようにいわれます。

 僕は眠りたいのです
  それなのに眠れないのです。(あぁ!神様!わかって下さい)
眠れえ、眠れ
  思い出すと、こればかり言われたような気すらします。
 薬を吸引し、痰を出やすくしてくれるのですが、まったくと言っていいほど出ないので困りました。ちゃんと出さないと小さくなっている肺に合併症が起きてしまうのだそうです。
 お腹からはたくさんドレイン(まぁ。要するに排出用のチューブです)がぶら下がっていて、体内に出てくる血を外に出しています。
 点滴は何種類あったのか?ものすごい数でした。HCUに移ったときには点滴の数がだいぶ減りましたが、その時でも15種類以上の点滴がありました。
 モニターで心拍数や血圧が管理されています。
お○○ちんにも排尿用の管が入れられています。
(あっ。女子は想像しないこと)

にぎやかな幻覚が

 意識がもどって少し経つと、
幻覚が見えはじめました。
これがまたにぎやかで、大切な睡眠の妨げになります。
最初は、まだ意識があり目を開けているのに見えはじめました。
 病室入口のわきの壁に、ちょうど手を伸ばしてかざした手のひらに隠れるくらいの
八角形のはめ絵が現れました。

 まず「
かえる」です。(わかるかなぁ?)
 みどりの殿さま蛙が、はめ絵になっているのが現れたかと思うと、それがもぞもぞ動き始めました。と思うと、今度は外に飛び出して踊り始め、そのサイズが見る見る等身大になって、ベッドの周りで踊りだしました。

 次のバージョンは「
ゴリラ」です。
 茶色のゴリラがはめ絵になっているのが、同じように動き出し、次に踊り始めるのです。
 他にもいろんなものが出てきました。
しばらくすると、目を開けているときには見えなくなりましたが、目をつぶると、
ジャングルジムのような形に(ちょうどパソコンのスクリーンセイバーのように)ニョキニョキとパイプが展開していったり、「月のおばあさん(日本ではウサギですが、その西洋版のやつ)がちょこんとベッドの脇に座ったかとおもったら、すぐに千と千尋の神隠し」の「湯ばあば」に変身したり、医者と看護士さんが数人で僕を覗き込んでいたかと思うと、いつの間にかマネキンになっていたり、アロハを着ていたり、「パナウエーブ」のような白いベールが天井からふわーっと降りてきたり・・・なんとまぁ、にぎやかなことです。

 もう少し紹介します。

 突然、目の前に大スクリーンが現れて西部劇がはじまったり、星空が見えたり、花火が上がり始めたり、大がかりな医療機器がベッドの周りに置いてあったり
キリがないですね。
 目をつぶると出てくる、目をあけると消える。
 目をつぶるとすぐまた出てくる。

 「また目をあけると、もとの部屋なんだよなぁ」と思いながら目をあけると、やはりまた消える。
 もっと困ったことは、目をつぶるとはじめは暗くなるのですが、しばらくするとまぶたの裏が明るくなって、炎天下で太陽の直射を受けているようにまぶしくなるのです。その炎天下で、なぜか「お掃除おじさん
(おそ松くんのレレレのおじさん?)が通りを掃除しているではありませんか。
 これで眠れるはずがない。
 こうして眠れずにいるとまた看護士さんがとんできて、
  
眠ってください
 幻覚のことを訴えても、
  「
少し我慢して、寝てください
 眠りたいんです、嘘じゃないんです
   少しはわかってよ。助けてくれえ。(催眠療法とかってないのかなぁ)

 主治医も来るたびに「
眠れましたか?」と聞くのですが、
 僕の印象としては、「
ICUではほとんど寝ていない」です。
 後からわかったことですが、手術の直前と直後の「メドロール」という免疫を抑制するステロイド剤の投与量が半端じゃない。
 今はだいぶ減って、朝3錠飲んでいるのですが、これだけで錠剤換算で625錠分投与されていたのです。その後だんだん減っていきますが、それでもものすごい量です。体液の何%が薬なのか?これじゃあ幻覚が出るのもわかります。
(正直に話したのです。「幻覚までふざけてる」といわないで下さい
                            精神分析もやめて下さいね

 こんな感じでICUにいましたが、3日目か4日目には「体重を量りましょうか」と先生に言われ、「ええ、もうぉー?」と思いながら、促されるままにベッドから起き上がって、ベッドのすぐ脇に置かれた体重計にのりました。
何キロだったかは覚えていません。
 術後しばらくは、酸素マスクもしているし、肺もかなりしぼんでいて、会話するにも大変だったようです。
 毎日何回も採決されたり、手術跡の消毒をしてもらったり、エコーをしたり、24時間、管理され、いろんなことがあって今に繋がっているのでしょうが、ほとんどこんな記憶だけです。(スタッフの皆さん申し訳ない。これじゃあ苦労がむくわれない)
                                       つづく
                            ―次はHCUの九日間です―